世界自然遺産「知床」
〜秋の彩り〜

第3日目、ついにクマに出会った

3日目、午前5時、知床峠に向かう。少し起床時間が遅くなってしまった。昨日の雲は上がっていたが、峠近くになると厚い雲に覆われた。雲が風でどんどん動いている。視界100m程の峠を過ぎると左側の谷間が真っ赤に燃えている。

厚い雲の間から朝日が射し込んでいる。谷間が真っ赤になっている。昨日の雨で葉っぱが飛んでしまったダケカンバのシェルエットが浮かび上がる。雲が動き刻々と色と形が変わっていく。背筋がゾクゾクする光景だ。撮りながら見返り坂まで下る。2日前と景色が全く違う。自分の真上から根室海峡にかけて厚い雲がかかり、国後島の上は朝日が輝く。雲が動き、光が海峡に射し込み、海面が輝いた。

ふと後ろを振り返る、雲の切れ間から樹海に光が射し込んでいた。二日前にちょうどいい色になっていたダケカンバやナナカマドの葉っぱは昨日の雨と強風ですべて飛んでしまっていた。山は一日で姿を変えていることに気づいた。恐らく今は雲に覆われている知床連山に雪が降っていることだろう。

ウトロ側に戻るこちらは穏やかな朝日に包まれ、道路際でシカが朝食中。

ついに出会った

岩尾別方面にゆっくりと道路を下る。何回目かのカーブを過ぎた時、前方の道路に動く黒い大きな固まりを発見した。ついに登場、森の王者、知床の主ヒグマだ。


のっしのっしと森を歩く、ちらっとこちらを見た時、目が合った。距離は10mもない。穏やかそうな目をしていると感じた。ヤマブドウのツルが巻き付いている大木の根元で止まった。樹をトントンと叩きながら上を見上げて、ヤマブドウの品定め。ちょっと考えて、歩き出した。まだ早いのだろうか、のっしのっしと森の中に姿を消した。クマが横切った道路の周りを見てみると、どうやらクマの横断道になっているようだ。人間の作った道路がクマの通り道を横切っているというべきだろう。
ヤマブドウなどを撮影していると昨日同宿だった方と会って、さっきクマ見たよと道路際で話をしている、道路のノリ面の上方で、「パキッ」と枝が折れる音がした。
「動物!」、木々の間から黒い固まりがこちらを見ている。少し小さな若グマだ!さっきのクマの登場から50分後のことだった。クマはこちらをチラチラみながら、斜面を右方向へ。向かう方向はさっきクマが道路を横切ったところ、やはり通り道に向かっている。望遠レンズに交換しゆっくりと後を追う。すると後ろからテレビカメラをかついだ3人のテレビ局クルーが近づいてきた。

クマの動きが止まった。こちらを見ている、やはり大勢の人間は嫌なのだろうか。観察されている。きっとこのまま行って道路を横断するかどうか考えているのか。テレビカメラクルーにクマの通り道の事を話し、ちょっと下がり道を開けるようにした。すると再び動きだした若グマは予想通り、道路を横切り、斜面下の森の中に消えた。見つけてから7分間の出来事だった。テレビカメラクルーのインタビューを少し受ける。フジテレビだった。夕方のニュース番組だった。クマを追っているとのことだった。

草原でクマの親子と出会った

ウトロに戻り、遅い朝食。海はうねりも波も高い。中の上位の波の高さだそうだ。イルカホテルに移動し、オーナーといろいろな話をする事ができた。降ってわいたような自然遺産登録、港に突然建設がはじまった高層ホテル、目の前の浜の沖合にできた立った一つの防波堤のおかげで海藻が全部駄目になった事など・・・・自然遺産になっても全然世界に誇れる受け入れ態勢が全くできていない、外国の視察の方々にほんとは見せたくないと、ほんとにその通りだと思った。二日間が知床をまわり、観光客の様子を見ていた現状が少し分かった。お昼近くになり、山が晴れて来た。知床連山の山頂が少し白くなっていた。
簡単に昼食を済まし、昨日の絶景ポイントに向かった。晴れ上がった雪を冠った羅臼岳、雪の白、ハイマツのグリーン、黄葉の斜面と高さによって色が違う山腹はきれいなコントラストを描いている。

昨日、よく見なかった崖の近くの草がなく土がでている部分をよく見てみると、大きな足跡と小さな足跡が並んでついている、そう親子グマの足跡だ。白い頭骸骨もある、若いシカの頭だ。

辺りをよく調べると草地に道が付いている、人間の踏み跡ではない。

確実に昨日から今日にかけてクマが通った跡。昨日は気がつかなかった。背後は断崖。逃げ場はない。撮影をさっと済ませ、斜面を離れ草地に真ん中に移動した。三脚にカメラを付け、数枚羅臼岳を撮影したときだった。左側斜め後ろに気配を感じた。振り返る。50mほど先、森の端から黒い大きな姿がこちらを見下ろしている。その後ろにピョンピョン飛び跳ている黒い小さな動物。親子クマ・・草原にいるのは、人独り、クマ2頭。目が合って、1、2、3、母グマはくるりとUターンした。大きな体で走り出し森に向かう、慌てて子グマが跡を追いかける。意外に早い早い!海からの風が駆け抜けた。あっそうか、クマは風上、こちらは風下。森の中からからクマは、草原を見下ろす斜面に出て初めてこちらに気づいたのか。
母グマは3秒でこちらを認識してくれてよかった。ほんの数秒間の出来事だった。クマが向かった森に注意しながらその場を後にした。車に戻り、飲み物を口にする。ホッとした。でも怖かったという気持ちではなく、なにか満足した気持ちだった。あの瞬間、あの空間をクマたちと一緒に入れた。周りに誰もいない。クマは人間を襲う怖い動物。そんなイメージを多くの人が持っているのはどうしてだろう。そんなことを考えた。写真こそ撮る事ができなかったがあの数秒間のシーンは脳裏に焼き付いていた。今でもはっきりと思い出す事ができる。貴重な出会いだった。

赤く染まるオホーツクの夕日

日が傾き始めた。秋の落日はあっという間だ。海岸部へ向かう。坂を下って、夕陽の名所プユニ岬まだあと数十mの所で道路のすぐ横にある黒い大きな固まりが目に入った。えっ、まさかこんな所に?!車はたくさん通りすぎているのにだれも気づかない。大きなクマがこちらに背中を向けて座っている。夕陽が当たり黒い体が赤くなっている。レンズを向ける、ゆっくりとクマが振り返った。目が合う。夕陽に浴びたたそがれクマさん。

すごみさえ感じる大きな背中とお尻、それとは対照的な人間的な顔をしている。
「な〜に?どうしたのさ」と言わんばかりの表情。車が数台止まり始めた。
車から降り出す人も出てきた。車から降りるな!!と叫びたかった。
クマはゆっくりと立ち上がり、やれやれ人が多くなってきたな〜とこちらを見ながらゆっくりゆっくり森の奥へ向かった。

でもそちら、プユニ岬のすぐ後ろの森でしょう!!
プユニ岬には、夕陽を見に来た人がたくさん集まっている。
夕陽を撮りながら後ろの森を確認する。クマさん、姿を現すなよ、集まっている人が騒ぐからな。と心の中で語りかける。まさかすぐ後ろにクマがいるなんてだれも想像してない。
落日、今日は雲の形もいい。雲がある空の夕陽もドラマチックだ。

背後の森からシカの群れが出てきた。立派な角を持つ筋肉隆々の雄シカ一頭に、数頭の無雌、繁殖期(発情期)に入っていた。

夕陽に照らされシカも森も赤く染まった。
夕陽を見に来た人が声を上げ始めた
す〜と夕日が海に沈んだ

たそがれの中、ウトロの港で漁船の写真を撮り、ガソリンスタンドで給油をして最終日に備えた。